われわれが直面している時代精神（Zeit Geist）とは何であろうか。

　来年には世紀の切れ目になる２０００年、大聖年の節目にポーランドのゲットーを目の当たりにしていたカトリック法王は、[法王無謬見]という定説を無視して、自ら過去千年間のキリスト教徒の罪を懺悔した。これを期にユダヤ教、イスラム教という教典の民との融和を図ろうという法王の祈りは政治的に正しい。

　日本では８００万円のために病人を遺棄死亡させた新興宗教セミナーの教祖が殺人罪で起訴された。オウム事件のときには、あれだけ圧力をかけた宗教政治結社も、相次ぐ言語同断の事態に、世論の反撃を恐れて何も言わない。もしろ、同類視されるのを忌避しているのだろう。

　一方、中国政府は法輪功を徹底的に弾圧している。邪教キャンペーンを貼っているが、何のことはない。過去の朝廷は、宗教運動に端を発した民衆の暴動（これを易姓革命という。）により滅ぼされているからだ。共産党という実利を追うイデオロギー帝国は、急速に発展する沿岸部の背後に残された貧しい８割の国民の反乱を恐れ、その引き金となりそうな法輪功を抹殺しようとしたのだ。

　ゲルク派についで、カギュ派の指導者まで脱出したチベットの中国人によるエスニック・クレンジングは、さらに強化されているだろう。

　

　そして、世界中の大学生は、ＩＴ産業の波に乗り遅れまいと、学業を放棄したり、学生と兼業で「起業家」になろうと躍起である。株価が会社の収益ではなく、将来への期待値で爆発的に動く時代になった。ナスダック・ジャパンの本格的始動により、日本でもその傾向はさらに加速されるだろう。

　Ｂ to Ｂ（Business to business）から、Ｂ to Ｃ（Business to Consumer）へとは、大前研一氏の新刊本『ドットコム・ショック』（小学館　2000/4/1）からの引用だが、確かにアマゾン書店のワンクリックを使用するとポータル・サイトのマイニングを受けているのだと思いつつ便利さで買い込んでしまう。

　当サイトの儀式文書なども無料で公開されているが、ＩＴ時代のトレンドは確かに単純サービスや、導入部は無料でなければならない。

　また、多数の店舗や、膨大な社員を抱えている大手の会社が軒並み業績を落とし、殆ど社員のないコンセプト１本、無店舗で商売する会社が（累計赤字にもかかわらず）株式上場で爆発的な高騰を起こす。これこそ現代の錬金術である。

　むろん、経済界の動静に魔術団体などのエソテリズムを提供するグループが追従してはいけない。譲れない１線は必ずある。しかし、一方でこの奇妙な時代精神にうまく対応できなかった団体は、速やかに滅びていくだろう。

　

　とりとめもなく述べてきて、奇妙な時代精神と結んだのでは、お困りだろう。

　われわれの直面する時代精神、まもなく２０世紀の時神が、２１世紀の時神に渡そうとしている時代の潮流は、このようなものではないか。

　

　第１に、インターネットを核とした意識の変革である。

　　　　　誰もが、茶の間から地球の反対側に瞬時にアクセスし、

　　　　膨大な資料を収集する便利なツールに馴れてしまった。

　　　　　常時変化する世界的な情報の波に晒されることが、

　　　　日常化してしまったのだ。誰も落ち着いて書を紐解かない。

　　　　ネットで無料の要約を読めばいいではないか。

　

　第２に、強烈な物質的な富への指向である。

　　　　　アムウエイが毒と知りつつ、隣人を引き込む。

　　　　　地道な職人芸を磨くことより、ＩＴ株で一儲けしたい。

　　　　　他人よりも１歩でも先に出て、金持ちになりたい。

　　　　　世界１の仏教国タイで、金持ちになる新興宗教が、

　　　　仏教大学の学生をカネで縛って、信者獲得のための

　　　　マニュアルを書かせている。

　

　第３に、過剰なまでのオカルト指向である。

　　　　　物質的な富を求めるのと同時に膨大な余暇をもつ

　　　　不安な魂が、安っぽいオカルト導師に騙されて喜ぶ。

　　　　　騙して欲しいのだから、これほど簡単な詐欺はない。

　　　　鉄面皮になり来世を信じなければ、誰でもインスタント

　　　　（オ）カルト宗教の教祖さまだ。

　

　これらは、いずれも猛烈な毒である。その指向を正確につかみ、正しく用いることができれば毒は薬になるだろう。しかし、毒を制するのは強い精神、意志をもつ者だけだ。従って、時代精神の毒に負けた者は「癒し」を求める。

　

　従って、時代精神のその４は、癒しを求める疲れた魂である。

　

　

　さて、過去に急速な変革期を迎えた時代は、その時代精神が軋みをあげ、ストレスに苛まれた人々の要求に応えるべく伝統宗教が変質し、新興宗教や精神ルネサンスが発生している。

　６世紀のインドは、都市型文明が崩壊し、農村型の文明に移行（退化）した時期である。このときヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教ともにタントリズム、すなわち尸林の宗教の同化を行った。１６歳の処女と交合せよと教える宗教は、激動期にしか発展し得ないであろう。

　また、魔術の類縁深い薔薇十字運動は３０年戦争に至る皇位継承の暗闘、フランセス・イェーツの言う「ボヘミアの悲劇」が起こった１６世紀の短い時期に勃興した。

　マルティン・ブーバーの『ゴグとマゴグ』で有名な１９世紀初頭のポーランドのユダヤ人ハシディクムの魔術的暗闘は、ナポレオン戦争のさなかに揺れたポーランドの独立とユダヤ人のメシア信仰が複雑に絡み合った結果である。

　そして、当サイトにもある「黄金の夜明け戦争」とは、まさしく魔術結社がサイバー時代にどう適応していくかと試行錯誤するさなかの勝組と負組の容赦のない闘いである。

　

　われわれエソテリック・スクールは、宗教とは少し違うが同じ器に盛られた精神と霊魂を相手にしている。時代精神を無視して、現代の悩みに石器時代の手法で答えるのは怠慢と言うものだろう。

　

　この流動する時代に、魔術界で、いち早く反応したのが、ほぼ最初のサイバー結社となるＩＭＮである。「ほぼ最初」と言った訳は、ＤＮＡなどが先鞭を切っていたためである。残念ながら、ＤＮＡの試みは成功していないし、類似のサイトは自然消滅しそうである。その中で唯一の成功例がＩＭＮなのだ。

　わたしはＩＭＮの内幕にタッチしていないので、何とも言えない面もあるが、その成功の要素は、先の時代精神に対する的確な反応にあると推測している。

　

　しからば、わがＩ∴Ｏ∴Ｓ∴は？

　これは請うご期待である。