夏至の魔術儀礼
秋端 勉
序 章 夏至の意味
夏至はおおむね６月２１日頃である。
天文学的には夏至というのは太陽の黄経が９０度になる瞬間だが、その赤緯は最も高く、ちょうどヘラクレス座の棍棒、または双子座の足のあたりで赤北２３度半になる。太陽はまさに銀河の帯を通過するところであり、銀河中心の反対方向で最も熱を放つ。（北半球の場合）
さて、魔術的な意味では、夏至は太陽がその頂点に達するときである。そのため世界の各地で火の祭りが行われる。炎の熱と光で黄金の太陽を称えるのである。しかし、夏至という瞬間は太陽の熱が《増大》から《減少》に変化する瞬間でもある。従って、この祝祭のもうひとつの意味は「生命のなかの死」である。ガードナー派の魔女は、この点を強調し、盛夏における「樫の王」の死で演じる。注１「黄金の夜明け」団の外陣では、夏至の儀礼はなかったが、内陣の達人たちはこの日にヴォールトの聖別を行う習わしだった。注２しかし、今日の魔術団体は殆どが四季の儀式として、夏至の儀礼を導入している。
ここに紹介する魔術儀礼は、カバラ／グノーシス的神話体系を導入したＩ∴Ｏ∴Ｓ∴オリジナルである。個人的に使用される分には差し支えないが、文書等への転用／引用等には団の許可が必要であることを注意しておく。なお、夏至の集団儀礼については、『Ｉ∴Ｏ∴Ｓ∴儀式魔術文書Ｇ０２』及び『四季の魔術儀礼』を参照されたい。
されば、われらとともに夏至を祝いたまえ。
第１章 《夏至の魔術儀礼》の手順
実に様々な魔術儀式が、数多の魔術／魔女団体により開発されている。 ここに紹介するのは、魔術修行者がひとりで行うことができる夏至儀礼である。 また、当然行うべきである個人神殿の設定や解除等についても省略してある。スタンダードなやり方を知りたいときは、『召喚魔術』（国書刊行会）の特別解説を参照されたい。
◎ 小五芒星の追儺儀式（エジプト式文）
夏至儀式は、《生まれなき者の儀式》を含むので、通常のＬＢＲＰは用いない。《竜の儀式》の手順は、以下のとおりである。
儀式場の中央に東に面して立つ。素手か、笏または短剣を持つ。 次の手順で、《竜の十字》（クルクス・ドラコニス）を切る。通常の、カバラ十字とは動作もヘブル語の名前も違うので注意していただきたい。
両腕を高く上げ掌を上に向け、頭は上空を仰いで言う。
「ＡＢＲＡ ＫＡＤＢＲＡ（アブラ・ハダブラ）」
両腕を降ろし掌を下に向け、背筋を伸ばしたまま、頭を垂れて言う。
「ＴhＬＩ（テリ）」
頭を正面に向け、左手で右肩に触れて言う。
「ＶＢＲＣh（ヴェ・バレアク）」
左手をそのまま、右手で左肩に触れて言う。
「ＶＯＱＬＱＬＶＮ（ヴェ・アカルケロン）」
両手を肩から胸に滑り降ろし、両腕を十字に組み言う。
「ＯＬ ＢＬＩＭＨ（アル・ベリマー）」
東に行き、地の追儺の五芒星を描き、中心を指し、次を唱える。
「ＨＲＶ−ＲＡ−ＨＡ（ヘル・ラ・ハ）」
南に行き、五芒星を描き、中心を指し、次を唱える。
「ＡＰＶ−ＰＲＳh（アポ・フラス）」
西に行き、五芒星を描き、中心を指し、次を唱える。
「ＡＳＴh−ＲＮＮＶＴh（アスト・レンヌース）」
北に行き、五芒星を描き、中心を指し、次を唱える。
「ＡＳＲ−ＶＮ−ＮＰＲ（アサル・ウン・ネフェル）」
東を通過し、中央に戻る。
両腕を広げ、次を言う。
「我が前に、 ＨＲＶ−ＭＡＫＨＩＳ（ヘル・マキス）
我が後ろに、ＨＲＶ−ＡＭＯＶＮ（ヘル・アモウン）
我が右手に、ＨＲＶ−ＭＨＮＴＶ（ヘル・メントゥ）
我が左手に、ＨＲＶ−ＫＨＯＮＳＶ（ヘル・コンスー）」
「Ａ−Ｈ−Ａ（アァ！ハァ！アァ！）」
「我がうちに、静寂と力の星たる五芒の線が燃え、
柱のなかに、真夜中の太陽たる六芒の光が輝く。」
再び、《竜の十字》を切る。
◎ 夏至の祝祭
中央で東に面する。
「ヘカス ヘカス エステ ベベロイ」
両手を目の前で左右に広げる《ヴェールを開く》合図を行う。
東に進み、風の召喚の五芒星を描く。
「世界の胎は喜びに震えたり。
熱き陽は中天に昇り、
風の主はその愛し児を得たり。
黄金は形を得、暗き影は過ぎ去りし。」
南に進み、火の召喚の五芒星を描く。
「われらは凱旋する太陽を称えたり、
そは輝く緑のなかで情熱的黄金の衣を纏いたり
しかして、われらは完全なる人間を召喚せん
われらの裡に住まう秘密の心臓を」
西に進み、水の召喚の五芒星を描く。
「真珠母の輝きは世界を満たせり
真の王権の潜みし珊瑚の煌めきなり
赤い反照は陸と海を染め、
鷲の頭をもつ双子存在は中央にあり均衡を保ちたり」
北に進み、地の召喚の五芒星を描く。
「そは大地の宝物、
地霊の長により捧げられし秘密の王冠なり
真昼の明かりのなかで露にされ、完璧な輝きを保ちたり
花婿はその国土に王権を主張したり」
東を通過し、中央に戻り東に面する。
「Ｉ−Ipsissimis Isis
Ａ−Ad Astra Apophem
Ｏ−Omnes Omnium Osiridem
ＩＡＯ（イィィィー・アァァァー・オォォォー）」
中央で南に面する。
「ここに《生まれなき》者を召喚せん」
「聖なるかな、汝、宇宙の主よ。
聖なるかな、汝、自然の造らざる者よ。
聖なるかな、汝、広大にして強大なる者よ。
光と闇の主よ。」
《竜の十字》を切る。
「われ汝を召喚す、生まれなき者よ。
汝、地と天を造りし者よ。
汝、昼と夜を造りし者よ。
汝、闇と光を造りし者よ。
汝は、完全者たるわれなり、何人もかって目にせぬ者なり。
汝は、イア ベズ ペー。
汝は、イア アポフラッツ ヨド。
汝は、正と不正を分かちたる。
汝は、女と男を造りたる。
汝は、種と果実を生みたる。
汝は、人を互いに愛しあい、憎みあうべく造りたる。」
「われはＢＧＤ。汝の密儀、すなわち光と闇の魔術を託されし、汝の予言者なり。
汝、湿と乾をあらわし、すべての生命を造り、育み、滅ぼすものなり。
汝、わが声を聞くべし。われは、無垢なる蒼穹の天使なればなり。
こは、汝の予言者につけられし名前なり。」
「われ、汝を召喚す、火の主よ！
汝、不敗の太陽よ。
汝、王権の守護者よ。
汝は、ＭＴhＲ−ＮＡＢＡＲＺ（ミスラ・ナバルゼス）、牛を屠る獅子なり。
汝は、ＺＲＶＡＮＡ−ＡＫＡＲＮＡ（ズルヴァナ・アカラナ）、無限の時間なり。
汝は、ＡＬ ＭＮ ＨＴzＶＲ（エル ミン ハ・ツォル）、岩から出る神なり。
汝は、世界の心臓にして、叡知の光なり。」
「わが声を聞け、そしてすべての霊をわれに従わしめよ。
さらば、すべての蒼穹の霊、エーテルの霊、地の上の霊、地の下の霊、
陸の霊、海の霊、渦巻く風の霊、逆巻く炎の霊、神のあらゆる呪詛と懲罰を、
われに服従せしめん。」
「これは神々の主なり。
これは宇宙の主なり。
これは風の恐れる者なり。
これはその命により声を造りし、万物と無の支配者なり。」
「わが声を聞け、そしてすべての霊をわれに従わしめよ。
さらば、すべての蒼穹の霊、エーテルの霊、地の上の霊、地の下の霊、
陸の霊、海の霊、渦巻く風の霊、逆巻く炎の霊、神のあらゆる呪詛と懲罰を、
われに服従せしめん。」
「われは汝のもとに行かず、汝がわがもとに来たれり。
星と、夜と、稲妻の彩る空間に、
汝がいずこをさまようとも、常にわがもとに帰り来たり。
われは天の空虚に住まえり。
汝がこの座所を訪れしとき、汝はまさに知る。
炎と煙の柱をとおして、汝は上り、また下りぬ。
不死鳥のごとく、翼は焼かれ、また蘇る。
そは汝の真実の名なり。」
「われはかれなり、生まれざる者なり。足元に目をもつ者なり。
強大にして不滅の火なり。
われはかれなり、真実なり。
われはかれなり、世界に悪のはびこるを嫌う者なり。
われはかれなり、稲妻を発し、雷鳴を轟かす。
われはかれなり、地に生命の雨を降らしたり。
われはかれなり、口より火を発する者なり。
われはかれなり、子を造り、光へと顕現する者なり。
われはかれなり、世界の恩寵なり。
蛇をまといし心臓こそ、わが名前なり。」
「汝、来たりてわれに従い、すべての霊をわれに服従せしめよ。
さらば、すべての蒼穹の霊、エーテルの霊、地の上の霊、地の下の霊、
陸の霊、海の霊、渦巻く風の霊、逆巻く炎の霊、神のあらゆる呪詛と懲罰を、
われに服従せしめん。イアオ、サバオ。かくのごとき言葉なり。」
祭壇の北に行き、南に面して香を焚く。
「香の煙が立ち昇るごとく、
わが霊魂も上昇すべし、
遥かなる低きエデンへと」
祭壇のワインを聖別し、空中で十字を切って飲む。
「夏至は過ぎ去り、わが心臓の光輪は回転せり
宇宙の主を称えん」
「聖なるかな、汝、宇宙の主よ。
聖なるかな、汝、自然の造らざる者よ。
聖なるかな、汝、広大にして強大なる者よ。
光と闇の主よ。」
「ＩＨＳhＶＨ及びＩＨＶＳhＨの御名において、この儀式にとらわれし全ての霊を解放せん」
東に進み、風の追儺の五芒星を描く。
「熱き陽は定められし軌道を走り
黄金は影の道を歩めり」
南に進み、火の追儺の五芒星を描く。
「太陽は再び戦場に向かい
心臓は黄金の炎をあげ輝けり」
西に進み、水の追儺の五芒星を描く。
「王珊瑚は波間に沈み
双子の鷲は両翼を陸と海に広げたり」
北に進み、地の追儺の五芒星を描く。
「地の王冠は玉座に置かれ
花婿は国土を治めたり」
東を通過し、中央に戻り東に面する。
「Ｉ−Ipsissimis Isis
Ａ−Ad Astra Apophem
Ｏ−Omnes Omnium Osiridem
ＩＡＯ（イィィィー・アァァァー・オォォォー）」
両手を目の前で合わせる《ヴェールを閉じる》合図を行う。
◎ 小五芒星の追儺儀式（エジプト式文）
第２章 用語解説など
《竜の十字》CRUX DRACONISのヘブル語の意味は次のとおりである。
「ＡＢＲＡ ＫＡＤＢＲＡ（我が言うごとく創造せん）
ＴhＬＩ（テリ：大いなる竜（蛇）は）
ＶＢＲＣh（極の（蛇）と）
ＶＯＱＬＱＬＶＮ（巻きつく（蛇）として）
ＯＬ ＢＬＩＭＨ（無の上に（吊るされり））」
ミトラ＝ズルヴァンの召喚部分では、南方の場を占めるアポフィス＝セトの背後に、獅子の顔を持ち、全身を螺旋状に蛇に絡まれた太古の時間神の姿を視覚化すること。神話体系や、空間の場については紙数が足りないので言及しない。
注：１ ファーラー夫妻『サバトの秘儀』（国書刊行会、1997年）125-137頁。
２ Pat & Chris Zalewski The Equinox & Solstice ceremonies of the Golden Dawn St.Paul: Llewellyn pub. 1992 page xi.
（初出：『ホルスの槍《号外》』VOL ４-１ ◇ 夏の号 ◇ 1994年 6月5日）